格安SIMに未来はあるのか

皆さんは「格安SIM」という言葉を聞いたことはありますか?

最近ではテレビCMでも頻繁に耳にするようになったかと思います。代表的なサービスに楽天モバイル、LINEモバイル、UQモバイル、そして特殊な例ではY!mobileが挙げられます。

これらの格安SIMは、大手通信キャリアである、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクとほぼ同様のサービスを展開していながら、料金面では低価格を実現しています。

こちらをご覧ください。



MMD研究所
の「2017年携帯電話の利用料金に関する調査」によると、大手通信キャリア 利用者の平均月額料金が7,876円に対して、格安SIM利用者の平均月額料金は2,957円です。なんと、両者の差には4,919円の開きがあります。

なぜ、格安SIMはこのような破格な料金で利用できるのでしょうか。その秘密はサービスを提供する事業者の本質に大きな違いがあるからです。

事業者の本質的な違いー「仮想的」であるか、ないか

まず、大手通信キャリアから見ていきましょう。別称で大手通信キャリアことを「MNO」といいます。Mobile Network Operatorの略称で、日本語で「移動体通信事業者」と呼びます。

MNOは自社通信回線設備を利用してネットワークを直接顧客に提供

簡単に説明すると、自社で通信回線設備(電波塔や基地局など)を保有していて、その設備を利用して通信サービスを提供している携帯電話会社のことです。日本でいうと、NTTドコモ(docomo)、KDDIのau、ソフトバンクのSoftBankがそれにあたりますね。

高品質かつ高速で安定的な通信環境を提供できるものの、通信設備の構築や維持管理、販売店への支援など、莫大な設備投資とランニングコストがかかるので、消費者もそれなりの料金を支払わなければなりません。

対して格安SIMのサービスを提供する事業者は自社で通信回線設備を保有していません。これらの事業者のことを「MVNO」といいます。Mobile Virtual Network Operatorの略称で、日本語で「仮想移動体通信業者」と呼びます。この “Virtual” というワードがポイントです。つまりMVNOは通信回線設備を保有せずして、仮想的に通信サービスを提供しているのです。

しかし、仮想的とはどういうことでしょうか。ここでMNOとMVNOの関係が重要になってきます。MVNOは、MNOから通信回線設備の一部を借り入れ、自社ブランドで通信サービスを提供しているのです。専門的な言い方をすると”帯域を借り入れる”といいます。

MVNOはMNOから通信回線設備の一部を借り入れて自社ブランドで顧客に提供

もちろんタダで借りているわけではありません。MVNOはMNOに対して接続料を支払うことで、通信回線設備を仕入れています。レイヤー2接続、10Mbpsあたりの各社接続料は、NTTドコモが67万4,818円、KDDIが85万8,335円、ソフトバンクが94万8,803の各月額接続料は以下の通りです。

ただ、各社MVNOが抱える契約者数によって、通信設備・回線の借りる量はそれぞれで異なるので、実際にはこの何倍もの接続料を支払っています。とは言え、何千億円もの設備投資をするMNOに比べれば、企業的に大したことでありません。また、接続料も年々値下がっています。

このようにして、MVNOは自前で通信回線設備を保有しないので、MNOのように巨大な投資リスクを背負う必要がなく、また比較的ランニングコストもかからないため、安価で消費者に通信サービスを提供できるのです。

ただ、MVNOが格安で通信サービスを展開することで、必然的に消費者は、高価なMNOから乗り換えられることが考えられるでしょう。ならば、MNOとしては自社を守るために、MVNOに対して大幅な接続料の値上げや、そもそも通信回線設備を貸さないという行動をとりたいものですよね。

しかし、「電気通信事業法」という法律や総務省が定めるガイドラインによって、MNOがMVNOに対して不利なことができないようになっています。具体的には、MVNOから通信回線設備の借り入れの要求があったら応じなくてはならない、接続料はMVNOの原価と利潤に見合った額以下で提供しなければならない、MVNOに対して不利な扱いをしたら行政処分の対象になる、など、通信回線設備を保有しない弱い立場のMVNOを手厚く保護する内容ですね。

ここまでして、政府がMVNOを保護する理由とは何なのでしょうか。それは、マーケット全体の携帯電話料金の値下げされることへの期待です。

冒頭でも申し上げたように、MNO利用者の平均月額料金は7,876円、年間で94,512円、約10万円もの金額を毎年支払っています。バカにできない固定費ですよね。もし、MVNOがマーケットに参入しやすくなれば、MVNO同士、はたまたMVNOとMNOの競争によって携帯電話料金の値下げが期待できます。

今話題の「格安SIM」が格安で提供できるのも、通信回線設備の貸し出しというシステムや法律という制度が整っているからこそ、実現できているのです。

格安SIMの未来ー その鍵を握る「iPhone」

しかしながら、格安SIMの普及率がまだ低いのは事実です。総務省の統計によると、2016年12月時点で携帯電話全体の契約者数に占める格安SIMの比率は8.9%、お世辞にも普及しているとは言えませんね。果たして、格安SIMに未来はあるのでしょうか。

では、格安SIMをさらに普及させるためにはどうすればよいのでしょうか? 答えは、各MVNOが格安SIMの通信サービスとiPhoneのセット販売を始めることです。日本においてiPhoneが人気端末であることは周知の通りですね。私はiPhoneなくしてシェア率を上げることはかなり難しいと考えています。

MNOでいうとNTTドコモがまさにそうでした。当初はAndroid端末のみの取り扱いでしたが、年々、KDDIやソフトバンクがシェア率を上げていったことを恐れて、2013年発売のiPhone 5sから取り扱いを始めましたね。

今では、全国のドコモ取扱店の入口には大きくiPhoneのポスターが掲げられているほどです。それだけiPhoneが顧客獲得に重要であるということです。StatCounterによる調査データを見ても、日本はAndroidよりもiOSの方がシェアが高い唯一の国です。まさにiPhoneが人気であることを一段と示しています。ならばMVNOもApple社からiPhoneを仕入れて販売すれば良いのです。

しかし現実には不可能と言えます。そもそもMVNOはどの業界でも参入できる比較的敷居が低いビジネスです。それがゆえに、それほど影響力のない企業でもMNOに通信回線設備の借り入れを申請することで、すぐに格安SIMのサービスを提供できます。現時点でMVNOが600社以上存在していることがそのことを裏付けていますね。そのような企業がApple社との交渉力がないことは言うまでもありません。

ところで、格安SIMでも有名なY!mobileやUQ mobileはiPhone 5sとiPhone SEを取り扱っています。最新のiPhone 7ではないものの、比較的安価な端末であるため、絶大な人気を誇っています。

なぜ、格安SIM事業者でありながら、iPhoneを取り扱うことができるのでしょうか。実は、この2ブランドについては、一般的な格安SIMとは大きく異なります。冒頭でも申し上げたように、特にY!mobileに関しては特殊中の特殊で、そもそもMVNOではありません。

まず、UQ mobileについてですが、事業者はKDDIグループのUQコミュニケーションズで、MVNOとして提供しているブランドです。他には、WiMAXのサービスを提供していることで有名ですね。

そしてY!mobileですが、こちらはSoftBankブランドを提供するソフトバンク株式会社が提供するもう1ブランドです。メインであるSoftBankと通信回線設備は何ら変わりありません。言ってみればSoftBankの格安版です。つまり、ソフトバンク株式会社は主軸のSoftBankと格安のY!mobileの両方を1社で運営・提供しているということです。従って厳密にはY!mobileはMNOと言えます。


このようにY!mobileとUQ mobileの両ブランドは巨大な後ろ盾があるので、iPhoneの取り扱いが比較的簡単にできるのです。ちなみにこのようなブランドのことを、それぞれの主軸であるSoftBankとauに対して、サブブランドと呼びます。

では、そのような後ろ盾が一切ないMVNOは、どのようにしてApple社からiPhoneを仕入れればよいのでしょうか。ここでMVNEが重要な役割を果たすべきであると考えています。まずMVNEとは何なのか見ていきましょう。

MVNEとは、Mobile Virtual Network Enablerの略称で、日本語で「仮想移動体サービス提供者」といいます。MNOとMVNOの中間的な存在で、主にMVNOに対して事業を支援しています。

前述のように、MVNOはどのような業界でも参入できるビジネスです。従って通信関連に疎い企業が参入することも当然あり得ます。そのような企業にノウハウを提供する事業者がMVNEです。他にも、MVNOの代わりにMNOに通信回線設備の借り入れの交渉をしたり、端末調達の支援を行っています。

日本のMVNEではNTTコミュニケーションズのOCNとインターネットイニシアティブのIIJなどが有名です。どちらも以前から通信関連の事業を展開しており、影響力の大きい企業です。

これらの影響力のあるMVNEこそが、もっとApple社に積極的に交渉をし、iPhoneを仕入れ、各MVNOに卸せるようにするフローを形成すればよいのです。そうすれば、影響力のないMVNOでもiPhoneの販売ができますし、MVNEとしても、それはそれでMVNOにiPhoneを卸売りするという一つの新しいビジネスになり得ることができます。



これが実現できれば、格安SIMの急速的な普及が望め、格安SIMの未来が見えてくることでしょう。